- 弁護士
- 本橋 美智子
親権者の指定と面会交流の許容性
面会交流の許容性が親権者の指定に影響するか
離婚に際して、夫と妻のいずれを子の親権者とするかは大変重要でかつ困難な問題です。
親権者の決定について、実務では、主たる監護者による監護の継続性が重視されています。
主たる監護者とは、夫と妻のうち、主に子の監護に当たっていた者をいい、別居後もこの主たる監護者が子の監護をしている場合には、子の生活の継続性を重視して、その者を子の親権者と指定することが多いのです。
主たる監護者とは、妻になることが多い。
主たる監護者とは、時間的接触ではなく、子と養育者との愛着関係や心理的絆を重視する概念であると言われています。
しかし、実務では、妻が子の養育を行っている場合がほとんどであるために、妻が主たる監護者と認定されることが極めて多いのです。
学説では、父母とも主たる監護者となり得ることがあるとの考えもありますが、実務では、夫と妻のいずれか一方を主たる監護者と認定しているのです。
面会交流の許容性を親権者の判断基準とした判例
ところが、平成28年3月29日の千葉家庭裁判所松戸支部の判決は、妻が長女(当時2歳4ゕ月)を連れ出し5年10ヶ月監護し、その間夫と長女との面会交流を合計6回しか応じなかったのに対し、夫が、妻と長女との年間100日の面会交流を計画した事案について、夫を長女の親権者と指定したのです。
これは、かなり画期的な判決でした。
高裁判決は、子の親権者を妻に指定した
しかし、この千葉家裁の判決は高裁で変更され、長女の親権者は妻と指定されたのです。
高裁判決は、「父母の離婚後の非監護親との面会交流だけで子の健全な生育や子の利益が確保されるわけではないから、父母の面会交流についての意向だけで親権者を定めることは相当でなく、また、父母の面会交流についての意向が他の諸事情より重要性が高いともいえない。」と述べています(東京高裁平成29年1月26日判決)。
なお、この高裁判決についての上告は不受理となったので(最高裁平成29年7月12日決定)、高裁判決は確定しています。
面会交流の許容性は、子の親権者決定の考慮事由
このように、面会交流の許容性は、子の親権者を決めるうえでの考慮事由ではあるが、まだまだ重要視されているとは言い難いのです。
しかし、別居中から子との面会交流を実行、継続しておくことは、子の親権者決定に当たって、真に子の利益は何かを判断するうえでも重要になります。
ですから、面会交流は、別居後速やかに開始し、継続していくことが大切です。