日常家事債務の連帯責任とはなんですか。

日常家事債務の連帯責任とは

 民法761条は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。」と定めています。
 この条文に定められているように、夫婦の一方が日常の家事に関して第三者との法律行為によって負った債務については、夫婦のもう一方は連帯責任を負います。これを日常家事債務の連帯責任といいます。
 連帯責任ですので、夫婦の他方は、夫婦の一方が負った債務を支払わなければなりません。

日常の家事に関して生じた債務とは

 上記のとおり、夫婦間で連帯債務になるのは、「日常の家事に関して生じた債務」だけです。
 この日常の家事に関して生じた債務とは、日用品の購入や娯楽・医療・教育上の債務等が含まれると考えられています。
 ただし、この債務の範囲は、すべての夫婦において同一ではなく、夫婦の収入や資産によって異なると考えられています。
 この点に関し、最判昭和44年12月18日も、「民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。」と述べています。
 具体的に考えるならば、生活用品や日用品の購入等に関しては、「日常の家事に関して生じた債務」として、連帯責任を負うことになります。
 一方、夫婦の一方の趣味のための高額な物品の購入などは、「日常の家事に関して生じた債務」とはいえず、連帯責任を負うことにはなりません。
 なお、高額なものであっても、たとえば、子の学費のために金銭を借り入れたなどの場合いは、「日常の家事に関して生じた債務」に該当する可能性がありえます。

日常家事に関する代理権

 民法761条自体は、単に夫婦の日常の家事に関する法律行為の連帯責任責任のみについて規定しているように読めますが、「同条は、その実質においては、さらに、右のような効果の生じる前提として、夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定している」と解されています(最判昭和44年12月18日)。

表見代理(民法110条)の適用があるか

 日常家事に関する代理権を基本代理権として、表見代理(民法110条)の適用があるか否かに関しては、最判昭和44年12月18日は、「夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあつて、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法一一〇条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である。」と述べ、民法110条の類推適用を認めています。

民法110条の適用と類推適用の違い

 ここで判例が、民法110条の適用ではなく、民法110条の類推適用としたことは、比較すると以下のような違いがあります。
 民法110条の適用を認める場合には、「第三者において代理権があると信ずべき正当な理由があったか否か」が問題となります。
 一方、民法110条類推適用の場合には、「第三者において当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあったか」が問題となります。
 民法110条の類推適用の方が、直接適用の方が、正当な理由の対象が限定されているのです。
 例えば、一方の配偶者が高価な物品を買った場合、前者の場合には、第三者において高価な物品を買う代理権があったと信じる理由があったかどうかが問題となるのに対し、後者の場合には、第三者において高価な物品を買うことが夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信じたことに理由があったかが問題になります。
 このように、民法110条類推適用の正当な理由が認められると考えられる事例は限定的だと考えられ、認められるケースはそう多くはないように思われます。

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