離婚Q&AQUESTION
離婚Q&AQUESTION
配偶者が会社経営者であり、会社の株式を多数保有しているということがあります。
このような場合に、財産分与において、会社の財産を対象とすることができるでしょうか。
この問題に関しては、以下のように場合を分けて考える必要があると思われます。
財産分与の対象となるのは、婚姻期間中に取得した財産です。
したがって、会社株式に関しても、この株式を取得したのがいつか、というのがまず問題となります。
婚姻前に会社株式を取得した場合には、財産分与の対象外と考えられ、婚姻後に会社株式を取得した場合には、財産分与の対象になると考えられます。
財産分与の対象となるのは、夫婦が協力して取得した財産です。
したがって、会社株式に関しても、配偶者が婚姻期間中に得た資産により取得した財産であれば財産分与の対象になりますが、配偶者の親から相続したものであるとか、贈与を受けたものである、という場合には、財産分与の対象外となると考えられます。
会社株式が財産分与の対象となるとしても、対象となるのはあくまでも会社株式であり、会社の個別の財産ではないと考えられます。
したがって、財産分与の対象となる場合には、会社株式の価値を算定することが必要となります。
ただし、会社が非上場株式の場合には、株価算定には困難が伴うこともありえます。
また、会社株式が財産分与の対象となるとしても、寄与の割合が同程度なのかも問題となることもあります。
特に、一方の配偶者(主に経営者側)の働きによって会社が大きく発展した場合には、寄与について、1:1ではないと判断されることもありえます。
大阪高判平成26年3月13日では、離婚に伴う財産分与において、医療法人の出資持分が問題となりました。
事案の概要や判旨は以下のとおりです。
事案の概要
被控訴人(妻)が、医療法人を経営する控訴人(夫)に対し、控訴人の言動等や一方的な別居により婚姻関係が破綻したと主張して、離婚や財産分与等を請求した事案。
判旨
①出資持分が財産分与の対象となるか
本件医療法人が所有する財産は、婚姻共同財産であった法人化前の本件診療所に係る財産に由来し、これを活用することによってその後増加したものと評価すべきである。そうすると、控訴人名義の出資持分2900口のほか、形式上控訴人の母が保有する出資持分50口及び被控訴人名義の出資持分50口の合計3000口が財産分与の対象財産になるものとしてその評価額を算定し、控訴人が被控訴人名義の出資持分について財産分与を原因として控訴人に対する名義変更を求める旨の附帯処分の申立てをしていないことを考慮して、対象財産の総額に被控訴人の寄与割合を乗じて得た金額から、被控訴人名義の出資持分の評価額を控除する方法によって最終的な財産分与額を算定するのが相当である
➁出資持分の評価方法
医療法(平成18年法律第84号による改正前のもの)に基づいて設立された医療法人については、社団たる医療法人の財産の出資社員への配分については、収益又は評価益を剰余金として社員に分配することを禁止する同法54条に反しない限り、基本的に当該医療法人が自律的に定めるところに委ねており、本件医療法人のように医療法人の定款に当該法人の解散時にはその残余財産を払込出資額に応じて分配する旨の規定がある場合においては、同定款中の退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる旨の規定は、出資した社員は、退職時に、当該医療法人に対し、同時点における当該法人の財産の評価額に、同時点における総出資額中の当該社員の出資額が占める割合を乗じて算出される額の返還を請求することができることを規定したものと解されるところ、こうした返還請求権の行使が具体的な事実関係の下においては権利を濫用するものとして制限されることもあり得る(最高裁平成22年4月判決参照)。また、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、当分の間、本件医療法人において医師として稼働する意思を有していることが認められ、形式上も96.66パーセントの出資持分を保有する控訴人が、現時点において本件医療法人に対して退社した上出資持分の払戻を請求するとは考えられない。さらに、将来出資持分の払戻請求や残余財産分配請求がされるまでに本件医療法人についてどのような事業運営上の変化などが生じるかについて確実な予想をすることが困難な面がある。こうしたことを考慮すれば、本件医療法人の純資産評価額の7割相当額をもって出資持分3000口の評価額とするのが相当である。
③寄与割合
民法768条3項は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して分与額を定めるべき旨を規定しているところ、離婚並びに婚姻に関する事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないものとされていること(憲法24条2項)に照らせば、原則として、夫婦の寄与割合は各2分の1と解するのが相当であるが、例えば、ⅰ 夫婦の一方が、スポーツ選手などのように、特殊な技能によって多額の収入を得る時期もあるが、加齢によって一定の時期以降は同一の職業遂行や高額な収入を維持し得なくなり、通常の労働者と比べて厳しい経済生活を余儀なくされるおそれのある職業に就いている場合など、高額の収入に将来の生活費を考慮したベースの賃金を前倒しで支払うことによって一定の生涯賃金を保障するような意味合いが含まれるなどの事情がある場合、ⅱ 高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合などには、そうした事情を考慮して寄与割合を加算することをも許容しなければ、財産分与額の算定に際して個人の尊厳が確保されたことになるとはいいがたい。そうすると、控訴人が医師の資格を獲得するまでの勉学等について婚姻届出前から個人的な努力をしてきたことや、医師の資格を有し、婚姻後にこれを活用し多くの労力を費やして高額の収入を得ていることを考慮して、控訴人の寄与割合を6割、被控訴人の寄与割合を4割とすることは合理性を有するが、被控訴人も家事や育児だけでなく診療所の経理も一部担当していたことを考えると、被控訴人の寄与割合をこれ以上減ずることは、上記の両性の本質的平等に照らして許容しがたい。